2017往く映画・観た映画


「年末、か……」
 確定申告に向けて溜め込んでおいた未整理の伝票箱をそっと開け、そして閉め、私は新年を迎えるためのコラ画像(タイトル:門松と四季)を作りパソコンをシャットダウンした。仕事納めだ。となればあとは、あの店に行くしかない。

「大将、また久しぶりになっちゃった。席ある?」
「どうぞ、いらっしゃいませ。いつものお席ございますよ」
「ここは変わんないね。どう、最近調子は」
「相変わらずでございますねえ。景気のほうがアレでして、今年も仕入れは少なめとなっております。でも毎年のアレはちゃんとご用意ございますので」
「そりゃ嬉しいね。今年はなんか変わった趣向はあるの?」
「一寸気が早いですが、お正月も近いのでおせち仕立てにしてみました」

マグニフィセント・セブン

やおいでございます」
「いきなりおせち設定を放棄した」
やおいは森羅万象を包括する概念でございます。すなわち箸や器、いえ火や水のようなあらゆる料理、果ては生活全てに無くてはならぬ大切なエレメントでして」
「大将、顔が。顔が近い」
「しかもこちら、やおいの中でも人気の高い”死ぬと分かって共にゆく俺・お前”のダシが効いておりますので」

「これ、やおいが何種類も入ってるんだけど」
「メインキャストの男子が7人、つまり受攻固定とリバ全て合わせると63通りのカップリングがございますので、たいへんバラエティに富んだお味がお楽しみいただけます」
「ちなみに大将の推しは」
「……でございます」
「わかりやすい」

トリプルX:再起動

「続きまして一の重は『トリプルX:再起動』でございます。主菜に銃弾と肉弾アクションをあしらいまして、パリピなサントラとゆるい脚本でおめでたい様子を表しております」
「ドニーさんが入ってる!」
「縁起物でございますから。トニー・ジャーもございますよ」
「景気がいいなあ。浮世の憂さもぱっと晴れそう」
「劇中人が死んだりシリアスな事が起こってもまったくシリアスさを感じさせないという小ワザを効かせております」
「しかしいろんなものがギチギチに入ってて味の想像がつかないんだけど……大将この具は?」
「こちらはトリプルXですね」
「じゃあこっちは」
「こちらもトリプルXでございます」
トリプルXしか入ってないの?」

「召し上がった方もトリプルXになる趣向でございます」
パンデミック物なの?」

新感染 ファイナル・エクスプレス

「二の重はゾンビでございます。こちらは本当のパンデミック物ですね」
「年末年始なのに……。あれ、でも腐った匂いはあんまりしないね」
「こちら噛まれて三秒でゾンビ化という業界でも類を見ないスピーデーでフレッシュなゾンビとなっておりますので、できたて新鮮の味をお出ししております」
「新鮮でもゾンビじゃなあ」
「腐らず前向きに生きようという思いが込められてございます」
「大将それ絶対適当言ってるでしょ」
「いえいえこれが本当に人間社会の明暗を強火で煮込んだ濃い味の一品でして」
「捻りも斜に構えもせず直球で突き刺さる社会派味が凄い……。韓国映画のこういうネタ、何食べてもうまいしカロリー高いね」
「今年はゾンビの巨星ジョージ・A・ロメロ監督も鬼籍に入られましたが、理屈っぽいゾンビ映画の味はこうして受け継がれていくんでございますね」

「ま、それにおせち料理の由来なんてなだいたいが適当かダジャレでございましょ」
「ぶっちゃけた」

ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命

「やっぱり正月はジャッキーだよな。『ファイナル・プロジェクト』とか」
「そちらのジャッキーではございませんが”邪気を祓う”とも申しますしこちらぜひ年の瀬におすすめしたい品でございます」
「ダジャレで繋いでくつもりじゃないだろうね。それに邪気を祓うどころかなんだか画面も音楽もえらく辛気くさいんだけど」
「そういうところがまたシビれますでしょ。伝記だけに」
「ぜんぜんうまくない」

「これは幽玄とか怪奇みたいなちょっと古めかしい言葉がぴったりなニューロティック・ホラーだね。いやホラーと言っていいのか分からないけど……正直、かなり怖い……」
「夜暗い中ご不浄に行くのが嫌になるタイプのお品でございましょ。伝記だけに」
「天丼するな」

ザ・コンサルタント

「次に大将がアサインしたのはこれか。どういうクライテリアとアクションプランでこのコンテンツにフォーカスしたの?」
「そういうコンサルタントではございませんで、こちら会計士が主人公の一品となっております」
「地味そうだなあ」
「結構なアクションシーンもございますよ」
「ほんと? アクションは大好物だけど……なんかアクションって色じゃなくない?」
「お召あがりいただければお分かりになるかと」

「お分かりって言われても……うん、確かにここはアクションで……いやここは違うな、何の味これ? ぜんぜん食べたことない味がする」
「普通のアクション映画ならこう来るだろうな、みたいなことがぜんぜん来ませんでしょ」
「来ない来ない。これはかなり好きな変さだわ。人がバンバン死んでるんだけど、なんていうか優しい味がする。胃に優しく胸に迫る」
「後口のさわやかさは本年随一でございましたね。毎日卵を3個食べると身体が強くなるという健康豆知識も込められております」

T2 トレインスポッティング

「大将、これは……?」
サブカルの古漬け、20年ものでございます」
「言っていい? 食べる前から辛いのが分かるんだけど。だって20年ってさあ……いや前作は知ってるよ。もちろん知ってるよ。貼ってたよポスター。みんな貼ってたでしょ。あのポスターに何がしかのメッセージを感じて俺は同じクラスの連中とは違うんだって思いながら子供部屋の壁に貼ってたやつが100万人はいたと思うよ当時。でも20年て……大将20年前何してた? こっちはね、学生だよ。ガキですよ。自意識がメントスコーラみたいに噴出してた時期ですよ。そのメントスコーラを数年間見つめてたわけなんだよね、壁のレントンが。あのさあ、何もこんな年末の差し迫った時にさあ、そんな、そういう昔のことをね、蒸し返さなくてもいいんじゃないかと思うんだけど!!!」
「ま、ま、どうか落ち着いて。こちら続編でございますから、前作をご存知の方にはぜひともお召し上がりいただきたい一品となっております」
「でもさ〜……20年……」

「死にて〜〜〜〜〜〜」
「でもその”死にて〜”は、自分からは死なないのを分かっているから言える死でございますよね」
「この20年人生の出口も終着駅も線路すらも見つけられなかったよぉ〜〜」
「つまりそれでも人は生きていかねばならないという、実は前向きな思いが込められているお品でございますよね」
「嘘だ〜〜〜〜つれ〜〜〜〜」

タレンタイム

「では気分を変えてこちらのお膳はいかがでしょ。学生たちを中心に先生や家族や地域のみなさんを合わせた群像劇でございますが」
「学園モノとか子供が主人公の話はあんまり好みじゃないんだけど、まあ大将がおすすめしてくれるなら……」

Talentime

Talentime

「めちゃくちゃいい話だった……」
「おしぼりどうぞ。一見素朴に見えますが繊細な味わいでございましょ」
「そんなに派手なことも起こらない日常生活がえんえん続くんだけど、その一瞬一瞬が愛しすぎる。ずっと見つめていたい」
「月並みではございますが、やはり愛情や思いやりというものは尊いものでございますね」
「いやーこれは心が洗われたわ。あったかい気持ちで年を越せそうだよ」

アシュラ

「では温まったところでこちらのお屠蘇をグイッと」
「いやいやいやお屠蘇じゃないでしょビールに焼酎入れてたでしょ見たよ今」
「まま、どうぞどうぞグッと」
「味の想像が付かないよなんなのこのいやげなカクテルは」
「ガラスコップごと噛み割ってお飲みください」
「無理だよ! 無理無理無理無理痛い痛い」

「血反吐の味がする……あと後悔と恨みと恫喝と暴力と汚い金と裏切りとフルチンの味もする……」
「血反吐に始まり血反吐に終わる本年トップクラスの大出血サービス品でございます」
「これのどこがおめでたいおせちなのよ」
「容易に長いものに巻かれてはいけないという教訓がこめられておりますね。来春からの新社会人の方にもおすすめさせていただいとります」
「それはやめたほうがいいと思う」

ムーンライト

「また随分きれいなお重が出てきたね」
「幼年期、少年期、青年期の海鮮三段重ねとなっております」

ムーンライト スタンダード・エディション [Blu-ray]

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「…………」
「いかがですか」
「言葉が出ない。というか、喋ろうとすると感想だけじゃなくて自分のことまで語りだしちゃいそうで。色々思い出しちゃったな、昔のこと……」
「非常にパーソナルなお重ですので、逆に召し上がるとご自分のパーソナルな感情も引き出されるお客様も多ございますね」
「この辛い味も切ない味もときめき味もないまぜになっているの、見てるだけで涙が出そう。しょっぱいのはそのせいかしら」
「海の味でございますよ、海の味」
「ラストもいいなあ。バッドエンドじゃもちろんないし、でもハッピーエンドと言うような陽気さでもないし、しみじみいいラスト。侘び寂びすら感じる」
「年の瀬でございますので、しんみり来し方を振り返っていただくのもよいでございましょう」

イップ・マン 継承

「では最後のお重でございます。年をおさめ新年を迎えるのにふさわしいお品でございます」
「ドニーさんだ!」
「縁起物でございますから。タイソンもございます」
「タイソンまで! これは大アクション絵巻が期待できるね!」
「ささ、どうぞ冷めないうちにお召し上がりください」
「おせちってだいたい冷えてるもんじゃないの?」

イップ・マン 継承 [Blu-ray]

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「熱っ! そしてこの熱さ、アクションだけの熱量じゃない……?」
「はい、ずばり……”愛”でございます」
「愛……!」
「振り返れば2017年いろいろなことがございました。つらい話や世を儚みたくなるような話も多ございましたが、やはり愛だけは忘れず心に持っていたいという想いを込めてこちらお出しさせていただきました」
「凄い……いつも通り、いやシリーズ中最も激しいくらいのアクションの連続なのに確かに愛を感じる……」
「一挙手一投足に詩情を込められる稀代の武打星の煌めきあってこその味でございます」
「葉問2でドニーさんにスクリーンで再会してからもう7年近く経ったのか……。色々あったな。でも、考えてみれば人生の決断の場にはいつもドニーさんの映画があった……。『孫文の義士団』観たテンションで会社辞めたし、『捜査官X』観て次の仕事も辞める元気が出たし、その後の公開作も無職の心を慰めてくれた……。ここまでやってこれたのも、ドニーさんの”愛”があったからなのかもしれないな……」

「そういえば大将、今年は配信がコースに入ってなかったね。やめたの?」
「いえ、逆に仕入れが増えてきましたんで、そちらは年明けの初売りにお出ししようかと思いまして。よろしければぜひおいでください」
「あ、そう? じゃまた来年もお世話になるかな」
「はい、お待ちしております。それではよいお年をお迎えくださいまし」
 大将に手を振り店を後にした。帰宅したらドニーさんのフィギュアを祀ってある部分だけでも綺麗に掃除しよう。神や仏は信じていないが、愛は信じているから……。

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 インターネットのみなさま、本年もお疲れ様でございました。今年はだいたいずっと家にいて、映画はあんまり観れなかったんですがそのぶん配信でいろいろ観たのでそっちのベストはまた年明けにやりたいと思います(時間切れ)。
 そして家にいたのでなんとか年明けに新刊が出せることになりました。今まで出した本とはまたちょっと毛色が違う小説(短編集)ですが、面白いです。断言しちゃう。下記リンクに試し読みもございますのでぜひお手にとっていただければ幸いです。ではみなさまよいお年を〜〜〜わたしはこれから年越しスターウォーズ観てまいります。

王谷晶『完璧じゃない、あたしたち』紹介ページ

完璧じゃない、あたしたち

完璧じゃない、あたしたち

2016往く映画・観た映画


 今年はタフな一年だった。
 良い事もあったが、それ以上にひどい事もたくさんあった。出会いも別れも多く、私は気付かぬうちに心身ともに消耗していた。こんな日は、久しぶりにあの店に行きたい。

「大将、久しぶり。どう、景気は」
「どうぞ、いらっしゃいませ。いや、見ての通りでして」
「あれっ、何だか設えがえらく寂しくなったね」
「今年は不景気で仕入れの数が減ってしまいまして。お恥ずかしいばかりです」
「まあどこも苦しいからねえ……なんだか雰囲気も去年とは変わった気がするけど」
「ええ、今年は安くても少しでも美味しいものを召し上がって頂こうと思いまして、配信を仕入れてみたんです」
「配信」
「これが存外にご好評頂いておりまして。今年のコースにも入れさしていただいとります」
「へえ、それじゃ今回もコースでお願いしようか」
「はい、コース一丁。ありがとうございます」

カンフー・パンダ3

「では早速ですがこちら配信からの一品となります」
「えっ、これ劇場公開しなかったの」
「しなかったんでございますよ」
「1と2は劇場で観たんだけど、しなかったの……」
「しなかったんでございますよ」

「これ凄い傑作じゃない?!」
「はい、傑作なんでございますよ」
「この美麗過ぎるアートワーク凄いじゃない?!」
「凄いんでございますよ」
「さんざん手垢のついた『自分とは何なのか』話なのにすっごい新鮮で爽やかなストーリーになってるし、アクションは相変わらず抜群にイイし、泣かせと笑いのバランス最高だし、腹のぼよんぼよんしたパンダがだんだん神々しく見えてくるし、このネタなのにイヤげなオリエンタリズムあんまり感じないし、悪役は脇の甘いガチムチツンデレ片思い野郎で超萌えるし……」
「萌えるんでございますよ」
「劇場公開しなかったの」
「しなかったんでございますよ」

ジャック・リーチャーNEVER GO BACK

「これ前作はわりとしょっぱい評価してなかった?」
「今回は良かったんでございますよ」

「わーほんとだイイ! なんていうか、ほどよい」
「一ヶ月に一本これが観られたら最高という感じでございますでしょ」
「前作はちょっとハードボイルドのステロタイプに引きずられすぎてる気がしたんだけど、今回はスタンダードなのに古臭い味がしないね」
「洒脱になっておりますね。ほどよく」
「組む女優がほんとにいいよねトムクルは。あんなに濃い味なのに女優が立つ」
「今回は若手のダニカ・ヤロシュがまた素晴らしいでございましょ」
「この子すごいバイプレイヤーになりそう」

キング・オブ・エジプト

「〽抱ーきしめたーこーころの小宇宙〜」
「熱く〜燃やせ〜奇跡っをっ起こっせ〜」
「聖闘士ッ星矢ー! 少年はみっんな〜!」
「違うんですけどね」
「違うの?」

「違うにしては車田イズムに溢れ過ぎじゃないこの話? 超合神って何よ?」
「年末年始に景気がよろしいでしょ。お酒も金箔入りとかございますから」
「ねえ超合神ってなんなの」

デッドプール

「あっこれは知ってる。オゲレツな型破りヒーロー物でしょ?」
「それが違うんでございますよ」
「えっ、だってTwitterとかそういう話で超盛り上がってたし」
「こちら、ラブストーリーなんでございます」

「マジだ! 超ラブストーリーだ!」
「劇中に流れるケアレス・ウィスパーが泣かせますでしょ」
ジョージ・マイケルがまさか亡くなってしまうなんて……」
「今年は本当に辛い訃報が多過ぎましたねえ」

スタートレックBEYOND

「おっ、このシリーズ出されるの初めてじゃない?」
やおい、それは最後のフロンティア……」
「その枠かあ」

「ちなみに大将の推しカプは?」
「……でございます」
「えっ、今回そこはそこまで絡みがないような。なぜ今」
やおいは思案の外でございますので」
「大将この添えてある料理は……」
Netflixにて配信中のスタートレックTVシリーズ全727エピソードでございます」
「ななひゃ……大将生きてるうちに観終えられるの?」
「長寿と繁栄を祈ってくださいまし」

永い言い訳

「ここで和食が出るのは珍しいねえ」
「今年は邦画が豊作の年でございましたから」
「中でも大将がこれを選んだのはなんで?」
「それはわたくしが中年だからでございます」
「えっ、何それ」
「まあ召し上がってみてください」

「小賢しい中年ほどどうしようもないものはないねえ」
「でもどうしようもない小賢しい中年も、生きていかなきゃなりませんから」
「これ、ちょっと甘くない? どうしようもない小賢しい中年に」
「でも、その甘さが侘びしくも心地よいんでございますよ」
「これが心地よいって、それはつまり」
「立派な中年の証拠でございますね」

思いやりのススメ

「こちらも配信限定の一品でございます」
ポール・ラッド、好きなんだよねえ。セレーナ・ゴメスも出てて豪華じゃないの」

ロードムービーだ!!」
「お客さん、お好きでしょう」
「大っ好き! しかもこれ、今時ベタなくらいの超正統派ロードムービーじゃない」
「逆に新鮮でございましょ」
「難病の少年を初めての長旅に連れて行く、過去に傷を持った元作家の男。旅の途中でワケアリの少女を拾い……ってあらすじだけ書くと超ベタ!」
「ベタでございますねえ。でも、とってもいい話でございますでしょ」
「いいねえ。少年のキャラがめっちゃいいし、それを受けるポール・ラッドがほんとに最高。お父さん。世界のお父さん」
ファザコンのアイコンになりつつありますね」

ゴーストバスターズ

「こちら、話題のリメイク作でございます」
「下馬評や周辺話題がいろいろとかまびすしかったよねえ」
「大切なのは映画そのものでございますから」

「ヒャッハー!」
「ね」
「嬉しい楽しい大好き!」
「そうなんでございますよ」
「元気出るなあ。これ観て元気になる人いっぱいいるだろうなあって思うとそのことでまた元気が出る。最高じゃない」
「最高なんでございますよ」

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

「まだ公開中の新作じゃない。そんなに良かったの?」
「公開中でございますから多くはお話できませんけど……」

「我はフォースと共にあり」
「フォースは我と共にあり」
「我はフォースと共にあり」
「フォースは我と共にあり」
「凄くないこれ? 外伝なのに凄くないこれ? 今までのスターウォーズ全ての物語に、外せないセットの味噌汁が付いた感じじゃない? この一品でパーフェクトな定食が完成した感じがする……」
「単品でも美味しくいただける豚汁並の実力もございますしね」
「ドニーさんが、ドニーさんが」
「皆までおっしゃらなくても分かっておりますよ」

ハップとレナード〜危険な2人〜

「コースのシメがまさかの配信、しかもドラマ?」
「まさかの配信で、しかもドラマなんでございますよ」
「そこまで推すポイントは……?」
「まずジョー・R・ランズデールの原作小説の忠実な映像化である点と、原作からのアレンジ部分がまた素晴らしい点でございますね。あとは召し上がってみてください。1シーズン6話のミニシリーズでございますので」

「なんだろうこの、オフビートでブラックユーモアでゴアも厭話も友情もブロマンスもあって……メチャクチャで凄い変な話なんだけど」
「惹かれますでしょ」
「惹かれる」
「失礼ですがお客さん、お歳は」
「年明けて36だけど……」
「中年の若葉マークというあたりでございますね」
「まあねえ。まだ気力も体力もあるけど」
「やり直しが効くような効かないような」
「何か一発大きなゴトが舞い込んできたら今からでも人生一発逆転できるんじゃないかみたいな、まだそんな希望が持てる感じで」
「諦めるには若過ぎる」
「でも全力ダッシュするには老い過ぎてて」
「愛も恋もできるけど」
「初々しさはすでに無く」
「そんなところに惹かれますでしょ」
「沁みるわ……」

「コース、以上でございます。ご満足頂けましたでしょうか」
「配信出されるって聞いた時にはちょっと驚いたけど、悪くなかったね」
「ドキュメンタリーやドラマのミニシリーズ等、今までなかなかリリースが難しかった作品もどんどんアップされておりますから。今後もどうぞご贔屓に」
 深々と頭を下げる大将に会釈を返し、私は店を後にした。若葉マークの中年だが、来年もなるべく猫背にはならぬよう、小走りに進んでゆこう。

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 というわけで本年も皆々様お疲れ様でした。今年はほんとに映画観られなくて、配信さまさまの日々でござんした。NetflixAmazonプライムの靴底美味しかった……。
 わたくし個人は短編小説のweb連載を始めたり、念願の探偵モノの書き下ろし文庫を出せたりと仕事面では非常に充実した一年でした。

 来年はもっとバリバリ本を出したり札束風呂に浸かったりギャルにモテモテになったりしたいです。2017年も何卒よろしくお願いいたします。

2015往く映画・観た映画


「大晦日か……」
 ギリギリのギリで仕事が納まった私は、パソコンの電源を落として夜の街に出た。2015年という一年もまた、あっけないほどの速さで過ぎ去りようとしている。こんな時はあの店に行くのが一番だろう。

「大将、どうも。開いててよかった」
「うちは年中無休ですから。どうぞ、いつものお席へ」
「不景気なのに頑張ってるね、大将も」
「こうして来てくださるお客さんがいますから。今日はどうしますか」
「年の瀬だから、やっぱりコースでお願いしようかな」
「はい、ではコース一丁。ありがとうございます」

マッドマックス 怒りのデス・ロード

「おっ、いきなりメインディッシュ? 今年のコースは趣向が違うね」
「今年は色んなネタが豊作だったんですよ。特にこちらは今年を象徴する一皿ということで、最初にお出しさせていただきました」
「今年を象徴ねえ。具体的にはどんな?」
「とりあえず召し上がってみてください」
「オリジナルが好物だからなあ。こっちはどうだろ。見た目は2の延長線上って感じで……あっ!」
「いかがです」
「新しい! これが2015年の味!」
「そうなんですよ」
「いや、よく味わうとどれもまっとうな調理法なんだけど、そのまっとうを詰め込んだだけでこんなに新しい味になるのか……」
「いわゆるヌーヴェル・キュイジーヌですね」

メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロ-ド

メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロ-ド

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カンフー・ジャングル

「大将はカンフー好きだね」
「人生とはカンフー、カンフーとは人生ですよ」
「これもやっぱり、2015年らしい新しいカンフーが味わえるのかな?」
「いいえ、目新しい点はほとんどありません。しかし、これもまた今だからこそ召し上がって欲しい一品でして」
「どれどれ……ああ、ドニーさんの現代劇はやっぱりいいねえ。序盤の刑務所ファイト、アガるね」
「けっこうえげつない乱闘ですがカラッとしてますでしょ」
「ストーリーはまあ、因縁と復讐の話で……うん、まあ、目新しくはないね確かに」
「こちらは最後がキモなんです」
「最後?」

「これは…………愛!!」
「愛なんですよ」
「溢れるほどの武術、いや、『映画の中のカンフー』への愛……!」
「今こその味でございますでしょ」
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プリデスティネーション

プリキュアオールスターズ?」
プリデスティネーションです」
「SFかあ。原作はハインラインなんだね」
「ところでお客さん。お客さんは何か変わった身の上話はありませんか」
「?」
「酒を一本奢りますよ」
「???」

「凄い複雑怪奇な味だねこりゃ。噛みごたえあるなあ」
「でも一回でスルッと全部理解できますでしょ」
「そこが凄いね」
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マジック・マイクXXL

「You are……my fire」
「The one……desire」
「Believe……when I say」
「「I want it that way〜〜」」

「Tell me why?」
「女性と男性は互いにリスペクトしあい幸せになれるはず、という人類規模の希望が込められておりますから」
「'Cause I want it that way……」
「ほんとそうですねェ」
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ハイヒールの男

「お、韓国映画来たね」
「こちらは本国版の予告編が素晴らしいので、まずはこちらをぜひ」

「かっこいいアクションものじゃない。いいねえ」
「と、思いますでしょ。本編召し上がってみてください」
「えっ、何これ、こういう話に……?」

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「大将……自分らしさってなんなんだろうね。これ、超切ない話じゃないの……」
「切ないんですよ」
「こんな真摯にトランスセクシャルを描いた映画が東アジアから出てくることの驚き」
「これからどんどん変わってくと思いますね」
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ジョン・ウィック

「おっ、キアヌだ」
「実はノワールとの相性が最高なんですよ」
「言われてみれば『フェイク・シティ』とかも傑作だもんねえ」
「多くを語らないこのクールさ。「オマエ オレ イヌ コロシタ オレ オマエ コロス」であらすじが終わるね」
「キアヌはいつもあんまり喋らないんですけどね」

「どうでもいいけど『ホットライン・マイアミ』実写化しようとしてた人がもし居たら、これ観てショック受けただろうね」
「『ブレードランナー』を見たギブスンくらいにはショックだったと思います」゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

コードネームU.N.C.L.E.

やおいです」
「もはや何のクッションも無い」
「薔薇の木に薔薇の花が咲くように、ガイ・リッチーの作る映画はやおいなんです」
「なにごとの不思議なけれどとりあえず二人ともデカいね」
「ところでこちらソースが三種類あるんですが」
「どんな?」
「イリソロ、ソロイリ、リバです」
「…………。迷うな……」
「皆さんそうおっしゃいます」

「コードネームU.N.C.L.E.」 オリジナル・サウンドトラック

「コードネームU.N.C.L.E.」 オリジナル・サウンドトラック

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アントマン

MCUも正直作品増えすぎて混乱してきた」
「こちらは新規参入ヒーローですので新鮮な気持ちで召し上がれるかと」
「他のMCUヒーローとも何か味わいが違うような……」
「そうなんです。今回の主人公はアラフォーのバツイチ前科者無職なんです」
「いいとこ無しだ」
「でもポール・ラッドですから」
「可愛くてコミュ力高ければ無職でもなんとかなるっていうことだね」
「その2点が無かったらけっこうな大惨事になっていた話でもあります」

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ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム


「珍しいねえ、コースの終盤にアニメーションが出てくるなんて」
「こちら、娯楽映画に必要なもの全てが詰め込まれてますから」
「ええ〜? ひつじでしょ?」
「言葉はいらない。どうぞまずは一口」

「Baaaaaaaaaaaaa!!!」
「Ba〜〜〜〜〜」
「Baaaaaaa。Baaa」
「Baa」゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

夜間飛行

「知らないタイトルだなあ」
「東京国際レズビアン & ゲイ映画祭で上映された作品ですんで。ソフトも今のところ出ておりません」
「これがシメに来たのはなんで?」
「お恥ずかしい話なんですが、これについてはあまり多くを語れないんですよ。ただ、ちょっと自分の若いころに重ねてしまいましてね」
「へえ……」

「考えてみれば知り合ってだいぶ経つけど、大将のことあんまり知らないなあ」
「飯屋のおやじとお客さんの関係ですから」
「そうなんだけど、それもなんだか寂しいね。大将、奢るから今日は飲もうよ」
「大晦日の相手があたしでいいんで?」
「うん。なんだか身近な人と話したくなるシメだった」
「そうですか。じゃあ遠慮無くいただきます」
「来年も宜しく、大将」
「お客さん……」

.。*゚+.*.。 ゚+..。*゚+.。*゚+.*.。 ゚+..。*゚+.。*゚+.*.。 ゚+..。*゚+.。*゚+.*.。


 来年も何卒よろしくお願いします。少しシンミリとシメてしまって恥ずかしいので、銭ゲバらしく自著のアフィリンクを貼っておきます。春には新作も出るので買ってね!

2014往く映画・観た映画

「クリスマスか……」
 仕事納めの目処がまったく立たないままやけくそ気味にパソコンをシャットダウンし、私はイルミネーションきらめく街を見つめた。こんな夜は、あの店に行くしかない。今年も一人で――。

「大将、やってる?」
「お久しぶりです。どうぞ、いつもの席ございますよ」
「いやあ、また随分ご無沙汰しちゃったね。大将どう、最近は」
「おかげ様で何とかやらせていただいてます。今日はどうしましょうか」
「じゃあ、おまかせで行こうかな。去年と同じコースで」
「はい、コースで。ありがとうございます」

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

「まずはこちらからどうぞ」
「おっ、アメコミだね……んっ。大将、これ何かの毛が入ってるんだけど」
「アライグマです。具です」
「なんかの枝も入ってる……」
「具です」
「すごい具だね?!」
「一見珍味ですが、味の方はちゃんとしてますんで」
「あ、ほんとだ。けっこう王道」
「意外と最近無かったでしょ、こういうスペオペ

「音楽もいいねえ」
「追加でサントラお出ししましょうか」
GUARDIANS OF THE GALAXY

GUARDIANS OF THE GALAXY

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エクスペンダブルズ3 ワールドミッション

「メインは肉かあ」
「いえ、こちらは箸休めの甘味です」
「甘味? いやいや、このメンツで甘味はないだろ」
「まあ、召し上がってみてください」
「……甘い!」
「甘いんですよ」
「しかもこの甘さは……」
「ええ、これはですね」
「いや、待って大将、当ててみせるから。これはアレだろ、大将の得意な……やおい!」
「いえ、違うんですよ」
「えっ」
「こちら、ホモソーシャルのソーシャル抜きです」

「具体的にはどこがどう違うの?」
「妄想の余地がないくらいデキあがっているものは、ソーシャル抜きになります」
「いろいろあんだねえ……」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

イントゥ・ザ・ストーム

「2014年にもなって竜巻映画とか、今更感があるなあ。もう何十本作られてるのよ。コレは何か新味はあるの?」
「車です」
「車ぁ?」

「タイタス!」
「タイタス!」
「タイタス!!」
「タイタス!!!」

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ドラッグ・ウォー/毒戦

「おっ、香港映画だね」
「正確には香港・中国合作映画です」
「……そんなに、味に違いを感じないんだけど。ちょっと暗いけど」
「けっこう面倒なんですよ。公安の捜査官は正義の味方のヒーローにしなくちゃいけないし」
「でもスン・ホンレイだしヒドいことになってるよ?」
「死人や弾丸の数も中国側から規制が入って」
「いっぱい撃ってるし死んでるよ?」

ドラッグ・ウォー / 毒戦 [DVD]

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「そこは監督の腕の見せ所ってやつでしょうねえ」
「ルイス・クーもひときわ黒いしね」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!

「ビールだ!」
「ぐっとお呑りになってください」
「………………苦っ!!!!!!」
「苦いんですよ」
「苦すぎない?! 青春リユニオン甘酢っぱコメディだと思ったのに!」
「青春リユニオン甘酢っぱコメディです」
「甘くないよ?! 苦い! 苦い通り越して、辛い!!」
「こちら、お客さんによって苦さがだいぶ変わるようで」
「いやいやいや無理! 我が身を振り返って死にたくなる苦さだよこれは!!」

「お客さん、だいぶロクでもない青春過ごされたんですね」
「うるせえ! もう一杯!!」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

チェイス

「おっ、インド映画か。華やかだし賑やかだしクリスマス気分にピッタリだね。歌って踊って楽しさいっぱい!」
「こちら、各国で歴代インド映画興収No.1という謳い文句が付いております」
「そりゃ楽しみだ。さぞハッピーなボリウッドムービーなんだろうなあ」

「うっ……ううっ……」
「お客さん、紙ナプキンどうぞ」
「何これ?! 香辛料感ぜんぜん無いけど眼に沁みまくるよ?!」
「カレー的なものが一回も出てきませんので」
「なんていうか凄いナニがアレなんだけど……なぜアレなのか言いにくい!!」
「当店一応ネタバレ禁止店となっておりますので」
「こんなインド映画あるの?!」
「こちら、JUNEなんですよ」
「また新しいジャンルが出てきた……」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

テロ,ライブ

「お、懐かしいなあ。局アナ時代の福澤朗か」
「いえ、こちらハ・ジョンウです」
「あっほんとだ。……おお、いいね、この身だしなみ整えるシーン」
「エロいんですよ」
「身も蓋もないけどエロいね。いやしかし、食いごたえあるなあ」
「ランタイムは98分なんですけどね」
韓国映画にしちゃボリュームはかなり少ないんだね。でも凄いよ、このストレートな辛さ」
「パンチ効いてますでしょ」

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「はー、一気に食っちゃった。社会派だけど社会派(笑)みたいな斜に構えた味ぜんぜんしないね」
「このネタにトップスターが出るのも今の韓国映画ならではかもしれませんね」
「ますます目が離せないね。ハ・ジョンウ、エロいし」
「エロいんですよ」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

なんちゃって家族

「うーん……家族モノかあ。苦手なんだよなあコメディでも」
「こちら、家族モノが苦手なお客様にぜひお召し上がりいただきたい一品でして」
「そうなのお? じゃあ一口……」

「いかがですか」
「好き! これ、好き!」
「お口に合いましたか」
「いい! 家族モノなのに観終わったあと『実家に電話しないと……』とかシケた気持ちにぜんぜんならない! 家庭の味がまったくしない!」
「けど、家族モノなんですよ」
「うん、家族モノだ」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

ジャッジ・アーチャー

「何これ?」
「実はアタシにもよく分からないんですが、たぶん武侠映画ですね」
「去年も同じような話をした気が」
「同じ監督・主演ですので。いかがですか、こちらの方は」
「相変わらず何がなんだかぜんっぜん分からないけど、むちゃくちゃ美味い」
「こちらは予告編見ていただいた方が喉越しがよろしいかもしれませんね」

「いや、やっぱわかんねえよ!」
「でもいい味でしょ」
「メチャクチャ美味い。この監督、一生追っかけたい」

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

「さて、ではそろそろラストのひと品まいりましょうか」
「楽しみだなあ。大将の今年の自信作か」
「では、ちょっとこちら咥えていただきますか」
「何これ、ロウト?」
「ええ、それを咥えて……そうそう、それで、ちょっと上を向いていただけますか」
「ふぉう(こう)?」
「はい、よろしいです。では参ります」





 薄れゆく意識の中、私は喉奥に流し込まれたセメント様の何かに確かな『味』を感じていた。これは、この店に長年通って幾度と無く食べてきた味……大将のお得意の「あれ」だ。しかし、今まで食べたどの「あれ」より濃く、切なく、狂おしく、甘く、苦く、熱く、官能的な「あれ」だ。この味は何と言えばいいのだろう。

 視界が暗くなる瞬間、私は大将の笑顔を確かに見た気がした。いつもの温厚な微笑みとは違う、満面の笑顔だ。

『そうか……これが……この味が……”凄いやおい”……』

 息絶える寸前、私は確かにその新しき世界に到達した気がした――。

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゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――
 来年も宜しくお願いいたします。

新しき世界

It’s A Man’s Man’s Man’s World

オフィシャルサイト

親愛なる友へ
 君がこれを読んでいるということは、私はもうこの世から居なくなっているのでしょうね。いや、居なくなったというのは少し違うかな。少なくとも君の知っている私ではなくなってしまっていると思います。
 突然こんな手紙を送られて戸惑っている君の顔が目に浮かびます。でも、どうしてこんなことになったのか君にだけは説明しておきたかったのです。言い訳、もしくは懺悔と思ってくれてもかまいません。

 順を追って話しましょう。あの日、私は友達に誘われて一本の映画を観に行きました。タイトルは『新しき世界』。韓国の映画です。友達は「一緒に観よう。君にぴったりの作品だ」と言いました。内容の分からないものを観るのは少し怖かったけれど、友達を信用していたので軽い気持ちで新宿に向かいました。そのとき初めて、この映画のポスターを見たのです。そこにはスーツを着た三人の男性が描かれていました。それを見た瞬間、私は自分が逃れられない罠にかかってしまったのを知ったのです。
 
 『新しき世界』はいわゆる黒社会映画で、潜入捜査官が主人公の作品です。しかしここでその内容についてくどくどと説明することはしません。どれだけ細かくあらすじを説明したところでその後の134分の間私が受けた衝撃を表す言葉にはならないからです。

 一言で言うと、物凄いやおいでした。

 今きっと、君は呆れた顔をしているのでしょうね。確かに私はリアルでもTwitterでも一日30回はやおいやおいと呟いています。起きている時間の9割は男と男の掛け算問題の答えを探すことに費やしています。なんでもかんでもやおいにしやがってこのスベタ腐女子が。君はそう思っているかもしれません。ですが、私はこの世にやおいに出来ないものなどひとつも無いと思っています。その上で、『新しき世界』は森羅万象の中でもほんの一握りのものだけが到達できる「凄いやおい」のポテンシャルを秘めている作品だと言いたいのです。

 主人公である潜入捜査官のジャソンは表向き犯罪組織ゴールドムーンの幹部として生活しています。口数の少ないシュッとしたクールなタイプです。ジャソンのボスであるチョンチョンはお喋りで陽気でお茶目なタイプです。二人は上司と部下の関係なわけですが、そのやりとりはフランクです。時にチョンチョンを無視し、時にタメ口になり、時に身を挺して守るジャソン。時にジャソンをからかい、つつき、ウインクし、……するチョンチョン。強い信頼関係を感じさせる間柄ですが、ジャソンは潜入。その絆は偽りです。いや、偽りでなくてはならない、と言ったほうがいいでしょうか。

 知っていますか? 潜入やスパイなどの「誰かを騙して取り入る」職業物語は、どこかNTR……ネトラレの香りがします。映画の中のスパイや潜入はしばし本来の伴侶である組織を裏切り、一時の関係のはずだった犯罪者と真に愛しあうようになってしまいます。ふたりの男の間で揺れ動く男……アンダーカバー公務員たちは、皆よろめく人妻です。この映画の人妻ジャソンが最後にどの男を選ぶのか、ここに書くのはやめておきます。ただ、私はその選択を前に静かに涙を流しました。

 この映画は恐ろしい映画です。ねばつく血とセメントの熱さ。曇天の海原の冷たさ。男たちが鎧のように纏うスーツの黒。飛び散る血の暗褐色。五感を揺さぶる画面の中で、いわゆる「いい顔」の男たちが、どんどん眩いほどに美しく見えてくるのです。ジャソンはファーストカットでは美肌の東野幸治に見えました。しかし時が進むにつれ物語の悲劇性と比例するようにその容貌が変化していき、最後にはまるでラファエロの描く聖人のような美しさを放ちだすのです。そのとき、私はこの映画の魔力に完全に魅入られてしまったのに気付きました。

 我に返った時にはすでにPCの中に新しいフォルダが作られており、数百枚の画像と百個近いブックマークが並べられていました。言葉も、ローカルルールも、何もかもが分からないのに韓国腐女子の伝えたいことが私には分かるのです。そこには国境も環境も全てを超越した一つの共通言語、この世の平和の鍵になるかもしれない新世紀のエスペラント――やおいが、静かに、そして力強く横たわっていました。

 この辺りで筆を置きます。もう時間があまりありません。そろそろ佐川のお兄さんがDVD(韓国版初回限定盤)と母のお下がりのハングル勉強セットを配達してくる頃です。それを受け取ったら、本当にさようならです。でも、悲しまないでください。私の行く新しき世界は楽しい場所のようです。淵から中をのぞくと、笑顔のお姉さんやお兄さんが空の財布を振って歓迎してくれているのです。底が見えないほど深いので、一度潜ったらもう二度と戻ってこれないかもしれません。ですが、私はさらなるやおいを探すためこの韓国映画の沼に沈もうと思います。それでは、君も身体に気をつけて。アンニョン。

※追加※
何日経ってもこの映画のことが頭を離れずTwitterでもウザいほど妄想を垂れ流してしまったので、追加でまとめておきます。
妄想1
妄想2

追伸:早速中の人が出ているTVCMにお宝の匂いを感じました。

2013往く予告・観た予告

 大掃除を終え夜食でも買おうと寒空の下に出た私は、近所の空き地に見慣れない建物が立っているのに気付いた。近付いてみると、どうやら何かの店舗のようだ。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「あ、あの、すいませんちょっと覗いてみただけなんですが……ここ、お店ですか」
「左様でございます。宜しければ召し上がっていかれませんか」
「何があるんです?」
「予告編でございます」
「予告編」
「ただいまオープンキャンペーンとしまして、2013年おすすめセットをご提供しております」
「映画のおすすめなら別の店で食べちゃったなあ」
「いえ、あくまで予告編のみのセットでございますので」
「本編の出来とかは関係ないんだ?」
「ございません」
「じゃあ、食べてみようかな……」
「ありがとうございます。ではまずはこちらからどうぞ」

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

「こちらコールドプレイの「Paradise」が印象的な一本でございます」
「本編では流れないよね」
「美しい映像とスペクタクル感を美しく纏めた手堅い予告でございます」
「本編でコールドプレイ流れるのちょっと楽しみにしてたんだけど」


二郎は鮨の夢を見る

「鮨食いてえ」
「その一言でございますね。また、伝統ある鮨職人とクラシック音楽の組み合わせも本編への食欲を掻き立てられます」
「マスターここ鮨は置いてないの」
「ございません」


シュガーマン 奇跡に愛された男

「あっ、これすごく本編観たくなるね」
「予告でミステリーを提示するという調理法でございます」
「それに乗せられるとちょっと悔しい気もするけど」
「こちらは本編も美味でございますから、予告詐欺とはならないかと」


『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』

「2分足らずの中に人物紹介、世界観、あらすじを盛り込み、かつセンス・オブ・ワンダー感も添えております」
「お色気もちょっと入ってるし、なんか分からんけど楽しそう」


L.A.ギャング ストーリー

「かっこい……いやダサ……どっち?」
「ダサかっこいいでございます」


プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』

「またごずりん。マスターごずりん好きなの?」
「人気がある方の主演作は予告もきちんと作られているものが多いので」
「身も蓋もない」


オブリビオン

「ォブリ↑ビ↑オンンン_____ヌ」
「ォブリ↑ビ↑オンンン_____ヌ」


『殺人の告白』

「ふつうのサスペンスの予告じゃない?」
「こちら、本編を観ていただくと素晴らしさが分かるタイプの予告編でございます」
「本編関係ないって言ってたじゃない」


マジック・マイク

「本編の内容とちょっとだけズレてるような」
「予告編の仕事は本編を観たいと思わせる事ですので」
「それには成功してるよね。チャニング・テイタムのこの……」
ビーフケーキ!」
ビーフケーキ! ビーフケーキ!」


『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』

ジェフ・ブリッジスがパツキン美女になっちゃうってのがいいね」
「唯一の見せ場でもあります」
「本編面白くなかったんだ?」
「いえ、素晴らしいやおいでした」
(この店もか……)


『2ガンズ』

「ずっと札びら舞いっぱなし!」
「ただ勢いだけの予告と思いきや、30秒の中に基本情報をしっかり詰め合わせたテクニカルな一品でございます」


ゼロ・グラビティ

「……」
「……」
「…………あっ、息止めてた……」
「今年一番の予告編でございます」
宇宙ヤバイ
「やぼうございます」


「いやあ、予告だけでも腹いっぱいになるもんだね」
「そう仰っていただけるとわたくしも嬉しゅうございます」
「しかしこのお店変わった建物だけどいつ建てたの?」
「こちら移動販売車ですので」
「なるほどねえ。じゃ、お勘定お願いしようか」
「ご主人様、当店は全ての商品が基本無料となっております」
「え、大丈夫なのそれ?」
「はい。お代は観てのお帰りとなっております。それでは、いってらっしゃいませご主人様」

劇場予告篇でつづる映画音楽大全集 101 [DVD]

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宇宙ヤバイ

2013往く映画・観た映画

「クリスマスか……」
 仕事納めの後せめてもの思い出にとマイケル・ベイのクソコラを作った私は、すきっ腹を抱え一人外に出た。こんな夜は、あの店に行くしかない。

「大将、やってる?」
「どうぞ、いつものお席開いてますよ」
「いやあ、今年はやたらと忙しくてさ。大将の顔見るのも久しぶりだね。さっき仕事納めはしてきたんだけど」
「お疲れ様です。じゃあ本日はコースなんていかがでしょうか」
「コース? この店、そんなのあるの」
「ええ、今年のお勧めを十品お任せでってものなんですが」
「じゃあそれにしようかな」
「はい、コース一丁。ありがとうございます」

恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム

「まずはこちらどうぞ」
「へえ、インド映画」
「最近じゃ『マサラ・ムービー』って言うらしいんですがね」
「……うん、辛い。辛いけど甘い。あと濃い」
「あちらさんは大体濃い味なんですが、これは特に濃いんですよ」
「おっ、大将すごいイケメンが入ってるけどこれは?」
「アルジュン・ラームパールです」

「イケメンとしか言いようのないイケメンだねえ。そうか、インドは濃い系美男美女の宝庫だもんなあ」
「アタシはヒロインのディーピカー・パードゥコーン推しでして」
「大将も好きだね」
「いや、お恥ずかしい。でも悲劇のヒロインときゃるるんギャルの二役が美味しいでしょ」
「うん、うまかった。けっこうドロドロしてるけど、後味がハッピーエンドなのが不思議だね」
「ええ、ハッピーエンドじゃなけりゃエンディングじゃないって映画なんで」

「あ、アフィ貼るの?」
「めんぼくない、このご時世でうちもなかなか台所事情が苦しくて。次お出ししますね」


悪いやつら

韓国映画ね、流行ってるもんねえ」
「こちらはちょっと味付けが変わってまして」
「んー、『グッドフェローズ』?」
公式サイトにもそんな感じに書いてありますね。半グレとやくざ者の一代記って感じで」
「しかしこれも濃いっていうかエグいね、この味なに?」
チェ・ミンシクですか」
「いや、そっちじゃなくてこっち」
「あ、それは血縁です。あちらはエグいんです」
「ほんとにこんな感じなのかな……。あ、こっちにもイケメン」

「ハ・ジョンウですね」
「……エロいね、なんとも言えず。目が死んでるけど」
「今年は『ベルリン・ファイル』って映画にも主演してましたよ。そちらでもエロかったです」
「主題歌いいね。一発でメロディ覚えちゃうな」

「70年代の有名曲のカバーだそうです」
「映画の舞台は80〜90年代みたいだけどね。長いくせにずっと浸ってたくなる感じもグッドフェローズだなあ」

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「次お出ししましょうか」


バレット

「スタローンかあ。コースに入ってるのは珍しくない?」
「こちら、やおいなんです」
「あ、なるほどね」
「どうです、サン・カンとの組み合わせ」
「……やおいだね」

「今年のやおい案件は韓国勢が強いんですよ。次の一皿お出ししましょうか」


G.I.ジョー バック2リベンジ

「これも普通はコースには入らないんじゃ」
「こちらも、やおいなんです」
「あ、なるほどね」
「どうです、スネークアイズ×ストームシャドウ」
カップリング決まってるんだね」
やおいでしょう」
やおいだけどそれだけで食べるにしてはちょっとなあ」
「でもやおいですから。やおいに不味いもの無しって言いますでしょ」
「言うかなあ」

「言います」


ジャンゴ・繋がれざる者

「これもやおい?」
「あ、こちらはブロマンスです」
「違うんだ」
「違うんですよ。あと師弟要素も入ってますんで、お勧めですよ」
「これも凄く面白いけど長いね、ボリューム多い」
「グダグダの部分もコクがあるでしょ」
「小学生みたいな感想だけど『差別アカン』って思うね」
「ストレートでシンプルなロマンチック味なんです」


ジャッジ・ドレッド

「スタローンかあ」
「いえ、新しいやつなんですよ」
「へえ。今回のドレッドは誰?」
カール・アーバンです」
「……これ食べても食べても顔が出てこないんだけど。本当は入ってないんじゃないの、アーバン」
「顔、出ないんですよ。パンフでも公式サイトでも出してません」
「なんで?」
ジャッジ・ドレッドだからだそうで」
「かっこいい」
「映画もなかなかかっこよろしいでしょ」
「むしろかっこよさ以外のものがぜんぜん入ってない感じだね。潔過ぎだね」

「そろそろメインまいりましょうか」


パシフィック・リム

「でけえ」
「でかいんですよ」
「なんだろう、泣けてくるんだけど」
「『でかい』だけで泣けますでしょ」
「でかいのにおかわりしたくなる」
「じゃんじゃん召し上がってください。たくさん召し上がっても飽きが来ませんから。アタシの知り合いは15回おかわりしました」
「大将は?」

「5回ほどですんで、まだヒヨッコです」


ソード・アイデンティティ

「何これ?」
「実はアタシにもよく分からないんですが、たぶん武侠映画ですね」
「変な味……これ中華の味じゃなくない?」
「監督は伝統的な武道や撮影にこだわったって言ってるんですがね」
「おかしいよ、これ。一発どつかれただけでみんな瀕死になってるし。モンティパイソンとかドリフの味もするよ。産地偽装じゃないの」
「お口に合いませんでしたか」
「いや、すごい旨い」

「たぶん天然ものなんだと思いますよ。全員真顔ですし」
「天然かあ」


名探偵ゴッド・アイ

「ちょっと大将、これ血反吐とゲロと猟奇殺人の上にラブコメが乗ってるよ。大丈夫なの」
「よく混ぜて召し上がってみてください」
「ええー」
「大丈夫ですから、どうぞ」
「あ……楽しい!」
「楽しいんですよ」
アンディ・ラウとサミー・チェンのさわやかな味わいすごい。十代の味がする。でもこれ何? 何映画なの?」
「強いて言うならジョニー・トー映画です」

盲探 [香港進口版]/BLIND DETECTIVE盲探 Blind Detective 香港映画OST (CD+DVD) (限定版)

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「自分=ジャンルの人って強いね。何食っても美味しく感じる」
「じゃそろそろ最後の一品お出ししましょうか」


激戰

「大将これまだ日本未公開でしょ。映画祭で上映しただけじゃなかった?」
「こちら、やおいなんです」
「またかよ」
「ただのやおいじゃありません」
「おっ」
「素晴らしいやおいなんです」
「……」
「しかも師弟ものですから」
「そうやって大将はなんでもやおいにしちゃうんだから」
「まあ召し上がってみてください」

映画秘宝 2014年 01月号 [雑誌]

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やおいだ!」
「ね」


「いかがでした、今年のコース」
「どれも旨かったよ。ちなみに今年は何本の中から十本選んだの?」
「72本です。ちょっと少ないんですけどね、その中からいっとうのお勧め選ばさしていただきましたんで」
「なるほどねえ」
「いつでもお待ちしてますんで、来年もどうぞよろしくお願いします」
 大将の声を背中に私は店を出た。来年もうまい映画をたらふく食えることを祈って……。